「家に帰ると、あまり食べないんです」
病院で管理栄養士をしていた頃、80代の女性を担当したことがあります。
食が細く、食事を十分に摂ることができていませんでした。
血液検査ではアルブミン値(栄養状態を示す指標のひとつ)も低く、栄養状態の低下が心配される状態。
そして、その方は一人暮らしでした。
入院と退院を、繰り返していた
入院して、少し元気になって退院する。
けれど、家に帰るとまた食べられなくなり、体調を崩して再入院する…その方は、そんなことを繰り返していました。
病院にいる間は、周りに人がいて、食事も用意されています。けれど、自宅に帰れば、一人。
「今日は何を食べよう」 「作るのはちょっと面倒だな」
そんな日々の積み重ねが、少しずつ食事から遠ざかる原因になっていたのかもしれません。
食事は1日1食になってしまうこともあり、食べてもほんの少し。
数字だけを見れば、「もっと食べてください」と伝えるべき場面です。
でも私は、それが正解ではないと思いました。
食べられない人に、ただ「量を増やして」とお願いするのは、簡単なことではないからです。
「何だったら食べられそうですか?」
そこで、私は聞きました。
「何だったら食べられそうですか?」
すると、少しずつ、好きなものや食べられそうなものを話してくれるようになりました。
そこで提案したのは、無理に一度の食事量を増やすのではなく、間食を上手に取り入れること。
手軽に食べられて、少ない量でも栄養を補えるもの。
プリンやチーズなど、その方が無理なく口にできそうなものを、一緒に考えました。
そしてもう一つ大切にしたのが、「自分で食べるものを選ぶこと」でした。
指示された食事ではなく、自分で選んだ食事。その小さな主体性が、「食べてみようかな」の入り口になると思ったからです。
栄養指導が、「食事を楽しむ時間」に変わった
あるときには、一緒に調理実習もしました。
一緒に料理をして、できあがったものを食べる。
「おいしいね」 「これなら家でも作れそう」
そんな会話をしながら過ごす時間は、栄養指導というより、食事を楽しむ時間そのものだったように思います。
変化は、少しずつでした。いきなり食事量が増えたわけではありません。
でも、食べられるものが一つ増え、食べる回数が少し増え、そして「食べてみようかな」と思えるものが増えていきました。
その方が少しずつ元気を取り戻していく姿を見て、私はとても嬉しくなりました。
「おいしいね」も、栄養のひとつ
この経験から、私は「食べること」は、単に栄養を身体に入れることではないのだと、改めて感じました。
誰かと一緒に料理をすること。「おいしいね」と言いながら食べること。自分で食べたいものを選ぶこと。
それもまた、健康につながる大切な「栄養」なのだと思います。
高齢になると、食欲が落ちたり、料理が負担になったり、一人暮らしで食事が簡単なものになったりすることがあります。
そんなとき、「もっと食べましょう」と言うだけではなく「何だったら食べられそうですか?」と、
その人の気持ちに寄り添うこと。
食べられるものを一緒に探して、小さな一歩を積み重ねていくこと。
それが、管理栄養士として私が大切にしてきたことです。
栄養は、「食べられるところ」から始まる
あの方と過ごした時間は、私に「栄養は、食べられるところから始まる」ということを教えてくれました。
食べることが少しずつ楽しみになっていくとき、人は少しずつ元気を取り戻していく。
食べることは、生きること。
だからこそ、これからも一人ひとりの「食べたい」に寄り添える管理栄養士でありたいと思っています。
ご家族の「食べてくれない」にも、寄り添います
離れて暮らす親の食が細くなってきた。
「ちゃんと食べてね」と電話するたび、少し気まずくなる…そんなご家族の悩みも、よくお聞きします。
「もっと食べて」が届かないとき、必要なのは説得ではなく、「何だったら食べられそう?」から始まる伴走かもしれません。
MEGURUは、管理栄養士が「食べられるもの」「食べたいもの」から一緒に探していく、寄り添い型の健康サポートです。
ご本人にも、見守るご家族にも。食べることがもう一度楽しみになる、その小さな一歩をお手伝いします。
※本記事は実際の栄養指導での一事例をもとにしたものです(個人が特定されないよう一部配慮しています)。
効果には個人差があります。栄養状態や体調に不安がある場合は、医師や管理栄養士にご相談ください。
